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エロいけれども、真面目だよ。


by tsado16

賭け(その3)

           ・・・・・・・・★3・・・・・・・・
女はジイジの首に手をまわしたまま、耳元に口を寄せ、低いかすれた声で囁く。
「私、アイアンよ。よろしくね」
「えっ、・・・」
絶句する。この子がアイアン? 女の顔をまじまじと見る。
「君、セシリアじゃ、ないの?」
「それはこのお店でのステージ・ネームよ」
「お店の外では、通称だけど、アイアンと呼ばれているの。アイアンでリクエストが入ってびっくりしたわ。たまたまマネージャーがあたしの名、記憶していたからよかったんだけど。変な客じゃないかって疑っていたわ」
相変わらず、ジイジの顔を引きよせ頬ずりしながら、仔猫のような声で囁く。
「あたし、喉、乾いた。ビ―ル、飲みたいな。1杯、いただいて良い?」
「どうぞ。どうぞ。2杯でも3杯でも召し上がれ」
「オ・ニ・イ・サ・ン。ア・リ・ガ・ト・ウ」
「おっ、日本語。オ・ニ・イ・サ・ン、じゃないけどな。日本人って、ばれてたか」
「雰囲気で、わかるわよ。それに、オ・ニ・イ・サ・ンはゴマゴマすりすりよ」
右手を握って廻し、ゴマをする仕草。
「君がアイアンか。よかった。本当によかった。会いたかったよ」
「どうして、あたしを指名? 私とやりたいの?」
「今、確かに君にすごく魅かれている。でも、君をテイク・アウトしにきたわけじゃあ、ないんだ」
「なあんだ。がっかり。あたし、今、死ぬほど、まとまったお金がほしいんだ。カモだと思ったのに」
「そうか。カモになりたい気持ちもあるんだけど・・・」
「ねえ、あたしの名前、どうして、知ってるの?」

向かいの席に座っていたジャコとジャネット。眼の前で起こった一連の出来事にびっくり。話すのも忘れている。
「ジャコ、アイアンを紹介してくれた女、なんと言うんだっけ?」
「ステラって言うんだけど」

ジイジ、アイアンに向き直る。
「『ナイト・ピクニック』に出入りしているステラって女性、知ってるよね」
「ステラ姉さんね。大好きな人よ。とても親しいわ」
「そのステラに君のことを聞いたんだ」
「あら、どうして?」
「君にちょっと聞きたいことがあるんだ」
「まあ、何かしら?」
クスッと笑いながら答える。
「君、クリスって女の子、知ってるよね」
とたんに、アイアンの顔に警戒の色が走る。尋常な反応ではない。

「向かいに座っているジャネットと、クリスと、あたしは大の仲良し。というより、クリスは私達の妹分みたいなもんさ」
「へえ、クリスは君らの友達なのか。ちょっと、安心した。君達がしっかりした女性であるのは見ればわかるもの」
アイアン、甘えた舌足らずな口調から男のようなぞんざいな言葉遣いにギアを入れ替える。
「おら、おら、てめえ、調子のいいこと、言うじゃないか。何を探ってんだよ。奴らの仲間じゃあ、ないだろうな。正直に白状しろ。事と次第によっては許さないぜ」
「おお、こわ。怪しいものじゃないよ。奴らって誰?」
「ノー・コメントだ。てめえ、まだ信用できんもん」
「実は、クリスが危ないめにあっているって、耳にしたんだ。心配でたまらない。クリスに起こっていること、詳しく教えてくれないか? ステラは君なら知っていると言っている。教えてくれれば、お礼、差し上げるよ。お金、必要なんだろう」
アイアンの顔が急に怒気で真っ赤になる。眼に敵意が現れる。
「ジジイ、てめえ、なめるんじゃねえ。オイラ、身体を売っても、ダチは売らない! 何でも、金で解決がつくと思うんじゃねえ」
心の、触れてはいけない部分に触れたようだ。ジイジは慌てた。
「お金で情報を買うなんて、そんなつもりはこれっぽっちもない。信じてくれ」
「オイラとやりたいっていうなら、お金さえ払ってくれれば、いくらでもオマンコ、貸してやる。でも、ダチのことは、金じゃ、絶対にしゃべらない。見損なうな」
「悪かった。謝る。じゃあ、正直に事情を話すから、君の許す範囲で教えてくれないか」
アイアンの眼をじっと見つめ、心をこめて静かに話す。

「ジジイ、てめえ、誰なんだ?」
「私はクリスのパパをよく知っている日本人。東京から来てまだ日が浅いんだ。クリスの問題が片付くまで、しばらくマニラに滞在するつもりでいる。その間に、クリスが困っているなら、どんなことでも力になりたいんだ」
アイアンは少し落ち着いてきた。
「日本人だっていうのは、わかっていた。私もクリスもジャンネットも日本人の血が入っているんさ。皆、日本人と、中国人、韓国人とはすぐ区別がつく。その血のせいみたいだな」

「クリスのこと調べているうちに、クリスが売春をやっている。それどころか、悪い男達とグルになって、客から金銭を巻き上げているという噂を耳にしたんだ」
「そうか。そこまで知っているか。大筋は間違ってないと思っていい」
「美人局は即刻止めさせなければならない。クリスはまだ15歳。なんとか売春も止めさせたいんだ」
アイアンの顔にまた怒気が走る。
「身体を売って、何が悪いんだよ。あたしもクリスもジャネットも好きでやっているわけじゃない。皆、それぞれに事情を抱えているんだよ」
怒りの噴出というよりも、心の内に閉じ込めていた、持って行き場のない憤りを醒めた無感情で吐き捨てているという感じである。やりきれなさが伝わってくる。
「そうか・・」
ジイジは悲しい顔を向けてうなずくしかなかった。
こんないい子達が自分を無理やり納得させてオヤジ達に身体を提供している。切なくなった。

「でも、どうしてそんなにクリスに関心を持つんだ? てめえ、ロリコンの変態か? クリスみたいな可愛い少女を性的になぶりものにしたいんか? 最低の奴だな」
「そんなことは、絶対にない。君達と寝ることはしても、クリスとは絶対に寝ることはない」
「何でそこまで、クリスのことに首を突っ込む? てめえ、本当のことを言え」
「わかった。じゃあ、約束してくれ。クリスに、しばらくの間、私のこと、それから、これから話すことも内緒にしてくれないか。そうしたら、正直に話す」
アイアンもジャネットも信用していい娘とジイジは判断した。そのくらい人を見る眼はある筈だ。

アイアン、ジャネットの方を向く。
「ジャネット、話、聞いてたろ。どうする?」
「このおじさん、悪い人じゃなさそうだし、私はいいよ」
「わかった。じゃあ、私もそうする」

「ジジイのこと、クリスに言わないって、約束する。てめえの目的は何だ?」
「アイアン、その前に、私の顔をじっと見てくれ。何か、わからないか?」
アイアン、舐めるようにジイジの顔を見入る。
「クリスに似ているな。会ったときから、気になっていたんだ」
「似てるだろ。血が繋がっているんだ」
「じゃあ、お前はクリスのパパか? おかしいな。クリスからはパパは死んだと聞きいている」
「そうだ。クリスのパパは死んだ。私はパパのパパだ」
「おじいさん?」
「そう。クリスは、私の可愛い、可愛い孫なんだ」
言ってしまって、感、極まった。ジイジの眼に涙が浮かぶ。

アイアンとジャネットは顔を見合わせる。眼に納得の光が走り、敵意が消えている。
「お恥ずかしいことに、私は、クリスのパパとママの結婚に反対で、クリスのママにずっと冷たくしてきた。息子を失って、自分がひどいことをしたことに始めて気づいたんだ。クリスのママは私を拒絶している。クリスが私を受け入れてくれるかどうか、全くわからない。でも、クリスの気持ちがどうであっても、私はクリスにはできるだけのことをしてやりたい。それで、しばらく、クリスに私の素性を伏せておいてほしいんだ。クリスを心から愛している。自分の命に代えてもクリスのことを守るつもりいる。なんとか、クリスに『おじいちゃん』と呼んでもらいたい。もう仕事を引退している。ある程度のお金は持っている。クリスはもう身体を売る必要はないんだ」
「そうか、クリス、いい金づるつかんだんだ。ちっ、ちょっと、嫉妬するな。でも、クリスのこと、喜んでやらなくてわな。なっ、ジャネット」
ジャネット、うなずき返してくる。

「アイアン、今日、仕事、終わったら、クリスの問題、聞かせてくれないか?」
「ごめん。今日は夜の部も仕事が入っているんだ。悪いけど、つきあえないな」
「そうか。残念。じゃあ、明日は?」
「明日はお休み。ゆっくりお話できてよ。でも、クリスのこと、クリスだけの問題じゃあ、ないんだ。あたし達のグループ全体の今後の方向性にかかわる問題でもあるんだ。よ~く考えてみる。皆と話合ってみる。それまで待っててくれよ。携帯の番号、教えるから、ジジイのも教えておいてくれよ」
「わかった」
「ジジイ、携帯、貸せよ。あたいの番号、入れるから。ジジイの番号、もらっておいていいな」
「もちろん」
アイアン、慣れた手つきで、ジイジの携帯に自分の番号を入れ、ついでに、自分の携帯に電話をかけ、ジイジの番号も自分の携帯に登録する。あっという間の早業。
「へへ、これで金のないとき、ジジイに食事、たかれるな。シメシメ」
「了解。今、ダイアモンド・ホテルに泊まっている。ナイト・ピクニックは近いよな。『お腹がすいた。皆で美味しいもの、食べたい。出て来い』なんて内容でいいから、電話してくれないか」
アイアン、打ち解けてきている。信用されるまで、もう一歩。


「ところでよ。おじいちゃん、男だろ。助平なんだろ。あたしの若い身体、抱きたくない?」
アイアンは媚を含んだ顔を向けて言う。声音も一転している。
「そうだな。君のセクシーなダンスを見て、そんな欲望が湧いている」
「お小遣い、弾んでくれれば、明日、寝てあげてもいいのよ。あたし、結局、お金で寝る女だから」
「アイアン、もっと自分を大切にして欲しいな」
「お説教かい。あんたに私の何がわかるっていうの?」
「売春はいけないことだ。フィリピンの法律でも禁止されてるんだろ」
「この国の支配階級は法律なんか守ってはいないわよ。法律は金持ちのためにあるんだ。法律は自分達だと思っているんだから」
「どんな悪法も、法は法。破れば罰せられても仕方がないってこと。賢い君なら、理解しているよな」
「そりゃ、まあな」


「ジジイ、インテリだね。なんだか大学の先生みたい」
「まいった! 始めて会って、職業、あてられちゃった。すごい観察力だな」
「どうってことないさ。あたしのパパに、雰囲気そっくりなんだもの」
「君のパパも、大学の先生なの?」
「まあな。田舎のショボい大学だけどな。嫌な奴よ。裏表があって、口だけはうまく、誠実さのかけらもみられない奴さ。上には弱く、教育のない人間は馬鹿にする」
大学教授の娘、そう思うと、育ちの良さもどことなく漂う。親近感も手伝って、アイアンを見る眼が変わる。人間は先入観で物をみることから逃れられないようだ。
「おじいちゃんも、パパと一緒で、嫌な奴なのか?」
「う~ん。言われてみれば、そういう面があるな。特に昔の私は」


「君のパパやママが、君が身体を売っていることを知ったら、嘆き悲しむと思うよ」
「事情も知らないで、知った風なことを抜かすなよ。ジジイ」
「気に障ったらごめん」
「私のパパとママは43歳も歳が違うんだぜ。パパは家族がいるのに、ママが19歳のときに、ママを囲い者にしたんだ。ママは妾なのよ。月々、お手当てをもらって、週3回ペースで若い身体を弄ばれていたんだ。ママは身体を使ってお金をもらってた。ママは体のいい売春婦さ。私を非難なんかできやしないわ。パパは買春をやってたんだ。妾になってお金をもらうのと、売春をやってお金をもらうのどこが違うんだい?」
「法律に違反するかどうかってところなんだろうな。でも、君の言う通りかもしれない」
「そんなパパとママに私を非難する資格があると思う? もっとも、パパは3年前に78歳で死んじゃったけどね」


「おじいちゃん、お願いがあるんだ。クリスのおじいさんだから、私もおじいちゃんと呼んでいいだろ」
「いいけど。でも、どうせなら、ジイジって、呼んでくれないか。東京じゃ、そう呼ばれているんだ」
「じゃあ、ジイジ、あたしのこと、気の毒に思えるなら、あたしのパパみたいに、あたしを囲ってよ。お店で客をとるの、疲れてきているんだ。学校との気持ちの切り替え、しんどくなってきているんだ。あたし、大学を続けて勉強したいんだ。あたしを学校に行かせてよ」
「あたしを囲ってくれれば、学校に行っている時間以外は、いつでもセックスできるわよ」
「その必要はないな。立たないんだよ」
「えっ、チンチン、立たないの。大丈夫。がんばって、しゃぶってあげるわ。手と舌を使っていかせてあげるわ。私、研究熱心なんだ。うまいんだから。私の身体も、好きなだけ触って弄べるわよ」
「魅力的だ。実に魅力的な提案だ。心が動く。でも・・・」

「アイアン、今、大学に通っているのか?」
「そうよ。去年、苦労して入ったんだ。でも、授業料が払えない。今週中に払わないと、除籍さ。6万ペソ、緊急に貸してくれない?」
「それだけでいいのか? 君の向学心にほだされた。貸してやっても、いいぞ」
「ありがとう。借りるんだから、返さないとね。それがけじめというものよね。私、乞食じゃないもの」
「いい心がけだ」
「でも、実際には返すのは難しいわ。身体で払ってもいいかしら? どうせ身体で稼がなきゃ、なんないんだもの。直接、ジイジと取引したいわ。一晩、2000ペソでいいからね。だから、6万ペソだと、30回か。好きなときに私を呼び出して抱いてちょうだい。もちろん、お望みなら、クリスには内緒にするから、安心して」
「・・・・・」

「アイアンは勉強が好きなんか?」
「そんなに好きじゃないよ」
「じゃあ、何故、身体を売ってまでして勉強する」
「大学に行って良い成績を残して、私を妾の子と馬鹿にした本妻の子らより、知的にも優れた人間になって見返したいんだ。不純な動機だろ」
「あいつらの一族、パパが死ぬとすべてを奪って、あたしとママと兄さんを故郷のタクロバンから無一文で追い出したんだ。この落とし前だけはいつかきっちりつけてやるんさ。それがあたしの生きがい。あたし、復讐に燃える女なんだ」

「君のように美しくてお乳が大きい子が学問するというのは、私の常識ではどうも結びつかないんだ」
「オッパイの大きい女は、頭が弱いって、勝手に決め付けるなよ。日本のオッパイの大きい女は学問はしないんか?」
「そんなことはないんだけど」
「けど、なんだよ」
「面倒臭い学問をしなくても、オッパイで食べていけるのかな」
「私のように裸で踊ってか?」
「それもあるな」

アイアン、ジイジの片膝の上に後ろ向きで跨り、身体をジイジに預ける。後頭部をジイジの肩にもたれかけ、ジイジの手を指をはすかいに組み合わせて握り、話を続ける。時々、ジイジ唇に、唇を寄せる。
「ただね、これだけは知っておいて。クリスは組織に反抗して、危機一髪のところにあるんだ」
「なんで、また?」
「短くまとめて話せないわ。詳しい事情は、今度、会ったとき、話す」

「クリスはどうして身体を売るようになったんだ?」
「クリスの家の事情はあたしにもよくわからない。クリス、あんまり、自分のこと、しゃべらないんだ。もし、どうしても知りたかったら、カリフォルニア・カフェのグレース姉さんに聞けば、詳しいことわかるかも。クリスのママと親しいみたいよ。グレース姉さんは頼りになるわ。あたしの先生みたいなもんだから」
「カリフォルニア・カフェのグレースさんだな」
「そうよ。とても、魅力的な人。インテリ殺しなのよ。ジイジ、心、動くかも」
アイアン、片目をつぶって、いわくありげにジイジを見上げる。

「アイアン、悪いけど、君を買うことはできない。お金で女の人を自由にするなんて不道徳なこと、やっぱり私にはできない。私の今までの生き方に反する。だけど、授業料は貸してあげるよ。その代わり、クリスの情報、教えてくれるね」
「てめえ、言ったろ! お前、頭、悪いな。ダチの情報は金で売らないって。クリスの件とあたしの授業料の件はまったく別のことなんだ!」
「わかった。クリスとは関係なく、授業料は出す」
「あたしを買うのは、不道徳だっていうんだよな。あたしは不道徳な女なんだ。あたしのこの身体、汚いから買えないっていうんだな。わかったよ。もう、あんたなんかに頼まない。あたし、あんたみたいな、きれいごとを言う人のお慈悲なんてまっぴらご免よ。金はなんとか自分で作るさ。この身体、舌なめずりして、欲しがっているフィリピン人のジイサンも多いんだぜ。皆、あんたみたいな意気地なしと違って、不道徳だ。チンチン、ギンギンおっ立てて追っかけてくるんだぜ」
「・・・・・」
「お前、チンチン、立たないのも、そのウジウジした心のせいだよ。せっかく立たせてやろうと意気込んでいたのに。もう知るか」
「・・・・・」
「ジイジがあたしと寝るというのでなければ、もう会わないから。今晩、よく考えろ。あたしとセックスする気になったら、電話しろ。お前、もう60過ぎてんだろ。でも、社会というものをよくわかっていないガキだな。じゃあな。バイな」
「・・・・・」
「ジイジ、あたしが不道徳で汚いというなら、お前の愛するクリスも不道徳で汚いんだぜ。クリスが可哀そう」
アイアン、憤然として、胸をユッサユッサ、尻をプリンプリン、振りながら、足早に控え室へ消えていく。
怒っても、絵になる女。
by tsado16 | 2013-06-25 10:06 | 賭け